働くを誇りに、信頼の選択肢、正直な働き方─

📚「光の職人」と「闇の誘惑」の物語

昔々、光と闇が入り混じる世界に、一人の若者が住んでいました。その若者は、腕のいい職人の家に生まれ、毎日コツコツと働く父や母の姿を見て育ちました。しかし、彼自身は働くことの価値が分からず、いつも「もっと楽に生きられたら」と思っていました。

ある日、若者が森を歩いていると、道の先から不思議な声が聞こえました。振り返ると、そこには黒いマントをまとった男一閣の帝王が立っていました。

「若者よ、何を探している?」闇の帝王が低い声で問いかけました。

「僕は楽にお金を稼いで、すぐに自由な生活を送りたいだけさ」と若者は答えました。

闇の帝王はにやりと笑い、「ならば、私が君に最高の近道を教えてやろう」と言いました。そして若者に「影の道」と名付けられた地図を渡しました。

「この道を進めば、誰にも見つからずに富を得ることができる。労働も苦労もいらない。それに、この道を選べば、すぐに望みが叶うぞ。」

若者はその言葉に胸が高鳴り、「ありがとう!」と叫ぶと、地図を手に森を走り抜けていきました。

そして闇の道へ

その先にはまだ彼が知らない、代償という名の運命が待ち受けていたのだった──。


むかしむかし、光と闇が入り混じる世界に、一人の若者が住んでいました。その若者は、腕のいい職人の家に生まれ、毎日コツコツと働く父や母の姿を見て育ちました。しかし、彼自身は働くことの価値が分からず、いつも「もっと楽に生きられたら」と思っていました。

両親が丹精込めて作り上げる家具や織物を誇りに思うどころか、それらが彼には、無駄な努力のように映っていました。

誘い

そんなある日のこと。若者は何も考えず、ただ足の赴くままに森を歩いていました。森は薄暗く、木々がざわめき、若者の心には重たい霧のような感情が立ち込めていました。

ただ歩を進める ── その心は、退屈な日々と漠然とした未来への不安に押されるようなものであり、目の前に広がる森の深さと同じように、その心もまだ迷いのなかにありました。

そのとき──

突然、森の空気が変わりました。ひんやりとした深い闇に包まれ、どこからともなく耳をかすめるような不思議な声が聞こえてきました。若者は立ち止まり、辺りを見回します。

「誰だ?何の用だ?」

その声は答えることなく、風に溶けるように消えていきます。しかし次の瞬間、背後から静かな足音が近づいてきました。

振り返るとそこには、黒いマントをまとった男 ── 「闇の帝王」が立っていました。

「若者よ、何を探している?」

闇の帝王が低く、響き渡る声で問いかけます。目の前の男がただの人間ではないことは一目で分かります。その目は深い闇のように黒く、心の奥底を覗き込まれているかのような感覚になります。

「何を探しているのか、私に教えてみるがいい。」

その問いは、彼の胸の奥に眠っていた願望をそっと引き出し、彼の唇は自然と動いていました。

「僕は楽にお金を稼いで、すぐに自由な生活を送りたいだけさ」と若者は答えました。

闇の帝王はにやりと笑い、「ならば、私が君に最高の近道を教えてやろう」と言いました。そして若者に「影の道」と名付けられた地図を見せました。

「この道を進めば、誰にも見つからずに富を得ることができる。労働も苦労もいらない。それに、この道を選べば、すぐに望みが叶うぞ。」

若者はその言葉に釘付けになりました。

そして袖の中から輝く金貨を一枚取り出し、若者の目の前に差し出しました。金貨は闇の中でもまばゆい光を放っています。

「人間はどうして簡単に稼げる方法があるのに、なぜわざわざ遠回りする?君はもっと簡単に、欲しいものを手に入れるべきだ。」

そして次の瞬間、

闇の帝王はさらに追い打ちをかけるように、マントをひるがえしました。するとその中から輝く金貨の山が現れました。
金貨のきらめきが、若者の視線を完全に奪います。

「さあ、見るがいい、この山のような金貨を。君がこの道を選ぶなら、これらがすべて君のものだ。何も失うことなくすぐに手に入る。」

若者の心は揺れました。わずかな理性が、「何かがおかしい」とささやいていましたが、その声はすぐに金貨の輝きと甘美な言葉の波に押し流されました。

「私の闇の国に来れば、君は効率的にお金を手に入れられる。私が命じた通りに動けばいい。それだけで、汗も努力も必要ない。」

「本当か?本当にそんなことができるのか……?」

若者は声を震わせながら尋ねました。その問いには、疑念よりも期待のほうが強く込められていました。

「ああ、もちろんだとも。」

闇の帝王は静かに頷きました。そのしぐさは、まるで古くからの友人のような親しみを帯びていました。でも本当は、若者の不安を巧みに取り除くものでした。

若者は地図をじっと見つめながら、ふと不安が頭をよぎりました。

「でも……この道、本当に大丈夫ですか?何か危ないこととか、悪いことがあるんじゃないですか?」

闇の帝王はすぐに優しい笑みを浮かべ、若者の不安を小さな子供をなだめるように包み込みます。

「おや、疑り深い若者だな。でも、それは悪いことではない。君は賢いな。なかなかしっかりしている。」そう言いながら、闇の帝王は地図を指でなぞり、まるで秘密を教えるような声で続けました。

「だが考えてみるがいい。若者よ。この世界に、全く危ないことがない道などあるだろうか?」

若者は答えられません。

「君の家族だって、毎日危ないことに向き合っているはずだ。道具を使えば手を傷つけるかもしれないし、体を疲れさせたりしている。人生に危険が全くない場所なんて、どこにもないんだよ。」

その言葉に若者は少し納得し始めました。

「この道だって同じだ。少しは危ないことがあるかもしれない。けれど、それを恐れて立ち止まるのか、それとも進んで自分の夢をつかむのか……君はどちらを選ぶ?」

若者は少し考え込みましたが、闇の帝王の声には、ふしぎな安心感がありました。

「どんな道だって、それなりの心構えは必要だ。でもこの地図は特別だ。私が保証する、いちばん早く、確実に稼げる道だ。」

若者に近づき、肩にそっと手を置きます。

「それとも、君はもっと長い時間をかけ、無駄な汗を流し、負け犬の人生を送りたいのか?怖がって恐れすぎる者は、結局何も得られないのだ。」

闇の帝王はさらに続けます。

「何か悪いことが起きるんじゃないかって、いつも怖がっていたら、何もできなくなってしまう。それが一番もったいないと思わないか?」

若者は息を飲みました。その言葉は、深いところにある不安を見透かされたようで、何も言い返すことができませんでした。

「この道は、君が持つ「勇気と賢さ」を試すだけだ。それとも、君はそんなに臆病者か?」

その言葉に、若者は少し胸を張りました。弱虫と見られるのは嫌でした。胸の中に熱がこみ上げてくるのを感じます。

「臆病者と見られたくはない…」

「わかったよ。この道を行ってみる!」

闇の帝王は満足げに笑いながら、若者を鼓舞するように言いました。

「さあ、この地図を持って行きなさい。君の自由な未来が、影の道の先で待っている。」

若者はその言葉に胸が高鳴り、「ありがとう!」と叫ぶと、地図を手に森を走り抜けていきました。

若者の目には期待と興奮が混じり、心は未来の輝きに酔いしれていました。しかし、手にした地図の端にうっすらと記された、小さな文字に気づくことはありませんでした。

──「代償なしに得られる富など、どこにもない」──


影の道の果てで

最初のうちはすべてが順調でした。お金はすぐ手に入り、誰にも邪魔されません。報酬は次々と若者の手元に積み上がっていきます。楽で、簡単で、効率的。

しかし進むにつれて、道は次第に暗く、険しく、そして孤独なものに変わっていきました。

若者はお金を手に入れるたびに、それが何かの代償であることを薄々感じていました。最初は気づかないふりをしていましたが、お金の重みが増すたび、胸の中の虚しさも増していきます。

やがて若者は、不気味な視線を感じるようになりました。見えない目があるような気がし、誰かに追われている感覚が離れません。そして、いつしかお金を手にする瞬間よりも、道を歩き続ける恐怖のほうが大きくなっていきました。

「これは…本当に僕が望んだものなのか?」
しかし、もう引き返すには遅すぎるように思えました。

若者は、手にしてきた金貨の冷たさを感じました。あの時、自分が選んだ報酬。けれども、なぜこんなにも重く感じるのだろう?その冷たい金属の感触は、これまで感じたことのない嫌悪感を引き起こします。

その間、彼の心には一つの記憶がよみがえりました。

── 最初のころ、若者は気づいていました。目の前に差し出されたお金が、ただの幸運ではないことを。けれども、その違和感は見ないふりをすることで簡単にかき消せました。「がんばって働いても少ない金貨しかもらえないような惨めな生活はごめんだ。これくらい、許されるだろう。」そんな自分への言い訳で、その違和感を誤魔化していたのです。

けれども今、その言い訳がむなしく響きます。

「お金が手に入る。それだけでよかったはずなのに、なぜこんなにも胸が重く苦しいのだろう?」

震える手で金貨を見つめます。そして若者が手に入れたお金は、いつも不思議と消えていきました。欲しいものを手に入れても、心は満たされない。むしろ空虚さが増していくばかり。次の報酬を得るために、さらに深い闇へと進むしかありませんでした。

「いくら手にしても、なぜ空っぽのままなんだ……?」若者は自分に問いかけます。「これが成功への近道だと思っていたのに、なぜこんなに苦しいんだ?」

どこまでも続く終わりのない闇の道。若者は気づいたようにハッと辺りを見渡します。そこは闇の道の続きでしたが、景色は以前よりさらに暗く、冷たく、絶望感に満ちていました。

周囲を見渡すと、道の両側に無数の人影が浮かび上がっていました。うつろな目をした彼らの姿は、かつて「近道」を信じてこの道を選び、いまでは抜け出せなくなった者たちでした。

周囲の影たちが、不気味なほど静かに彼を見つめています。その目には輝きがなく、疲れ果てた表情だけが浮かんでいました。魂のない人形のように――かつて夢を抱き、この道を選んだ者たちの成れの果てがそこにありました。

道の両側には、うつろな目をした人々の姿がちらほらと見え始めました。かつてこの道を進み、同じように「近道」を信じた者たちがここで滞り、抜け出せなくなっていたのです。彼らの顔は疲れ果て、瞳には輝きの欠片もなく、まるで魂を抜かれた人形のようでした。

「おい、大丈夫なのか?」

どれだけ呼びかけても、返事はありません。ただ低い声で、「もう無理だ」「やり直せない」という言葉を繰り返すだけでした。

彼らを見ていると、自分自身の未来が暗い霧の中からぼんやりと現れるような気がしました。

「このまま進めば、僕も……」

「戻れるものなら…戻りたい。」

とうとう若者は、小さな声でつぶやきました。しかし、暗闇はその言葉を冷たく飲み込み、響くことはありません。ただ、手の中に握られた冷たい金貨が、彼の現実を押しつけてくるだけでした。

その時、不気味な笑い声が背後から聞こえました。先ほどの人形のような人々が、今度は暗闇の中から嘲笑を浴びせてきます。

「引き返せないぞ。」

声には底知れない悪意が込められ、若者の背筋を凍らせました。

「君もこうなる運命だ。」

「戻る道はもうない。」

「働くなんて愚かだ。楽を選べ。」

周囲で羽音を立てるコウモリのような声たちが、若者を包囲しようとします。その時、その日一番暗い闇が押し寄せ、すべてを覆いました。

「君が選んだ道だろう?」

その言葉にハッと息を呑みました。背後から聞き覚えのある冷たい声が響きます。

振り返ると、闇の帝王がそこに立っていました。その存在感はあまりに圧倒的で、ただ目にするだけで心が凍りつきそうでした。

恐怖で心臓が激しく脈打ち、耳の奥で警鐘のように響きます。

その瞬間、若者の中で何かが弾けました。

「走れ。」

完全な絶望が若者を覆ったその瞬間、声にならない衝動が、若者の心の奥底から湧き上がりました。

「まずい。ここから抜け出さなければ!」

若者は無我夢中で足を踏み出しました。背後から闇が迫り、囁き声が追いかけてきます。

「逃げられると思うな。」
「お前はここに属している。」

針のような言葉が耳を刺すたび、若者の足はますます必死に地面を蹴りました。息が切れ、胸が焼けつくような痛みに襲われても、彼は止まりませんでした。

どこに出口があるのか、それはわからない。それでも、若者はただ一つの希望を信じ、足を前へと動かし続けました──自分自身を取り戻すために。

しかし、道はついに行き止まりとなりました。

若者は膝をついて頭を抱えました。

彼の体は寒さで震え、足元の地面は凍てついたように硬くなっています。

「どうしてこんなことに……」彼は弱々しくつぶやきました。その声さえも闇に飲み込まれ、何の響きも返しません。

その時です。

地面の下から、かすかな光が漏れていることに気づきました。彼は目をこらし、その光をたどって、ひび割れた地面の隙間を見つけました。

奇妙な扉との出会い

若者は地面を手でかきむしり、その隙間を広げようとしました。硬く凍りついた土が指を切り裂き、血が滲みました。それでも、彼は動きを止めませんでした。どれだけ痛みがあっても、暗闇に飲み込まれる恐怖のほうがはるかに大きかったのです。

ようやく土が崩れると、そこに古びた木製の扉が現れました。扉は小さく、不恰好で、ところどころ傷だらけです。しかし、そこから漏れる光は温かく、柔らかく、まるで心をほぐすようでした。

扉の中央には、何か文字が彫られていました。薄汚れた表面を手で擦ると、そこに刻まれた言葉が浮かび上がります。

「ここに入る者、誇りを求めよ。」

若者はその言葉に一瞬躊躇ました。「誇り」とは何なのか、彼には分かりませんでした。ただ、これまでの道では感じられなかった温もりが、その扉の奥にあることだけは確信できました。

「何が待っているか分からなくても、ここにいるよりはマシだ。」

若者は扉のノブを握りました。「おや、表面が温かく、かすかに振動しているぞ?」

力を込めて押し開けました。

光の村への奇跡的な到達

目が慣れるまで時間がかかりました。眩しい光が彼を包み込み、冷たさに凍えていた体を温めていきます。目を細めてその先を見ると、青い空の下に広がる美しい村がありました。

そこには明るい光に満ちた村が広がっていました。明るい空、緑の草原、そして人々の笑顔。村の真ん中では、職人たちが木を削り、糸をつむぎ、何かを作り出しています。

目が慣れるまで時間がかかりました。眩しい光が彼を包み込み、冷たさに凍えていた体を温めていきます。目を開けると、そこには輝く村が広がっていました。明るい空、緑の草原、そして人々の笑顔。村の真ん中では、職人たちが木を削り、糸をつむぎ、何かを作り出しています。

若者は信じられない思いで村を見渡しました。この場所がまるで奇跡のように感じられたのです。彼の心は初めて軽くなり、影の道の絶望とは全く違う感覚が、若者を満たしていきます。

村の中では、人々が忙しそうに働いています。誰もが何かを作り、修理し、手を動かして何かを生み出していました。しかし、その顔には疲れの代わりに、どこか満ち足りた表情が浮かんでいます。

若者がひとつの建物に足を踏み入れると、そこには無数の作品が並べられていました。手彫りの椅子、丁寧に織られた布、美しい木彫りの動物たち──すべてが息を吹き込まれたかのように輝いていました。

その中の一人が気づき、にこりと微笑みながら彼に近づいてきました。

一人の年老いた職人が彼に微笑みながら声をかけました。

「ここは…どこですか?」と若者が尋ねると、職人は静かに答えました。

「ここは光の村だよ。影の道で迷った者が最後に見つける場所だよ。」

若者はその声を聞いて初めて、自分が生きている実感を取り戻したように思いました。

「ただし、ここで生きるには一つだけ条件がある。」

「条件……?」若者が尋ねると、村人はこう続けました。

「自分の手で価値を生み出すこと。それだけだ。」

気を失い、目を覚ましたとき、若者はまったく違う場所にいました。暗闇の中にいたはずなのに、目に飛び込んできたのは穏やかな光に包まれた風景。そこは小さな村で、陽の光が温かく地面を照らし、人々の笑顔が輝いていました

「ここはどこだ…?」と呟くと、一人の職人が近づいてきました。

「ここは光の村。君のように、影の道を歩き疲れた者たちが偶然たどり着く場所だ。」

「偶然…?」若者は信じられない様子で辺りを見回した。

職人は頷きながら続けた。「そうだ。影の道を歩く者は、途中で必ず破滅を迎える。しかし、ほんのわずかな者だけが、その破滅の中から自分を見つめ直すことができる。そしてそのとき、光の村への道が開かれるのだ。」

若者は、自分がここにいることが奇跡なのだと悟った。影の道を進んだままなら、彼は確実に飲み込まれていたはずだ。しかし、何かが彼をここへ導いてくれたのだ。

光の職人との出会い

「ここは光の職人の村。ここで働く者たちは、地道な努力の中で生きる価値を見つける。さあ、君も試してみるか?」

若者は首を振り、「僕にはそんな根気もないし、どうせ僕なんかには無理です」と言いました。

すると職人は優しい目でこう答えました。

「根気や才能なんていらない。重要なのは、正しい道を一歩一歩進むことだよ。最初は何もできなくても、手を動かし続ければ、それが自分自身を形作る。やってみなければ、自分がどう変わるか分からないだろう?」

若者はしばらく迷いましたが、職人に手渡された小さな木片と彫刻刀を握り、恐る恐る削り始めました。

誇りの芽生え

最初はぎこちなく、不恰好なものしか作れませんでした。しかし、毎日少しずつ彫るたびに、自分の手が木を形作る感覚を覚えていきました。数週間後、若者は初めて、自分が満足する形を作ることができました。それは「小さな鳥」の彫刻でした。

その鳥を見たとき、若者は初めて胸の中に不思議な感情が湧き上がるのを感じました。それは、金や物では得られなかった「誇り」という感情でした。

闇の帝王との再会

ある日、若者が作業をしていると、再び闇の帝王が現れました。

「若者よ、お前は何をしている?もっと簡単に金を手に入れる道があったはずだ。」

若者は微笑みながら答えました。

「確かにそちらの道は簡単だった。しかし、何も得た気がしなかった。ここでは、手を動かし、一つ一つを作るたびに、自分が少しずつ成長していると感じるんだ。」

闇の帝王はしばらく黙り込み、最後にこう言いました。

「お前たち人間は不思議なものだな。手間や努力を喜び、そこに誇りを見出す。だがそれゆえに、我々が及ばない強さを持っているのかもしれない。」

そう言うと、闇の帝王は姿を消しました。

若者の新しい旅

それから若者は「光の職人」としての道を歩み始めました。彼の手から生まれる作品は、他の人々に喜びや希望を与え、いつしか多くの仲間が彼の元に集まりました。

彼は知りました。

「誇りとは結果ではなく、過程の中で育まれるものだ。」

「努力とは、単なる苦労ではなく、人生を形作るための道だ。」

こうして若者は、光の中で新しい人生を歩んでいきました。

彼らはお金を手にしたものの、誇りも目的も失い、無気力な影のような存在になっていました。


光の村での教え──誇りの意味

若者が光の村の穏やかな空気に浸っていると、村の職人が再び近づき、静かに口を開きました。

「君は影の道で何を得た?」

若者は握りしめていた金を見下ろしながら答えた。

「これだけです。でも、何の価値もない。手に入れるたびに心が軽くなるどころか、重くなるばかりだった。」

職人は微笑みながらうなずき、木彫りの椅子を作っている作業台へ若者を招いた。そして、木の表面を削りながら話し始めた。

「君が得られなかったのは誇りだ。影の道では、どんなにお金を積み上げても、それは君の存在価値には繋がらない。なぜだか分かるかい?」

若者は小さく首を振った。

「誇りというものは、他者から与えられるものでも、金や物で買えるものでもない。誇りとは、君が自分自身で築き上げるものだ。君が汗を流し、苦労を重ね、手で何かを作り出したとき、その中に君自身の一部が刻まれる。それが誇りだ。」

職人は木彫りの椅子を見せながら続けた。

「この椅子は、何日もかけて私が作ったものだ。一つ一つの削り跡に、私の時間と心が込められている。これを見れば、私は自分が何者であるかを思い出すことができる。誇りとは、自分自身を知り、それを認めることでもあるのだよ。」

影の道との対比

若者はかつての影の道を思い出した。

そこでは、得たものはすべて一瞬の快楽と引き換えに過ぎ去り、自分が何をしているのかも分からなくなっていた。得られる金はただの重荷で、自分の手で作り上げたものは何もなかった。

「でも、どうして影の道を歩いたとき、何も気づかなかったんだろう?」と若者は尋ねた。

職人は少し厳しい口調で言った。

「影の道が君たちを惹きつける理由は、それが簡単だからだ。何も考えず、何も感じず、ただ手に入れることができる。だが、それは君の魂から努力と成長を奪い去り、君を空っぽにする。簡単な道はいつだって危険なんだ。」

そして、目を細めながらこう付け加えた。

「だが、光の道は違う。光の道では、自分の手で形作り、作り上げる。その過程で、自分が何者であるかを見つけ、進化していくことができる。だからこそ、誇りを持つことができるのだ。」

誇りの種を育てる方法

職人は若者に彫刻刀と木片を手渡し、微笑んだ。

「さあ、君も試してみなさい。最初は不格好なものしか作れないだろう。それでもいい。重要なのは、君が一歩一歩進むことだ。」

若者は恐る恐る刀を握り、木片を削り始めた。その作業は不器用で、最初は形にならなかった。それでも、職人の励ましの言葉を思い出しながら、手を動かし続けた。

数日後、若者は初めて小さな鳥の彫刻を完成させた。それを見た瞬間、胸の中に言葉では説明できない温かい感情が芽生えた。それは、影の道では決して感じることのなかった「自分を認める誇り」だった。

最後の教え

職人は完成した鳥の彫刻を見て、頷きながら言った。

「これが誇りだ。君が自分の手で作り上げたものには、君の時間と努力、そして魂が刻まれている。それが君を形作り、君の価値を証明してくれるのだ。たとえ他の誰かに認められなくても、自分で自分を誇ることができる。これ以上に大切なことはない。」

若者は初めて、本当に納得するように頷いた。そしてこう思った。「誇りとは、結果ではなく、努力そのものの中に宿るものなのだ」と。

パターン②

誇りについての職人の説教

光の村で目を覚ました若者は、自分を迎えてくれた職人に言いました。

「僕は…何もかも間違っていた。でも、もう遅いだろう?今さら何ができるって言うんだ?」

職人は静かに微笑み、若者の肩に手を置きました。

「何も遅くはないさ。だが、まずは君が本当に知るべきことを話そう。」

職人は手にしていた木片を見せながら続けました。

「誇りとはな、完成された結果のことではない。むしろ、それを生み出す過程そのものにあるんだ。地道に手を動かし、汗を流し、失敗しながら形を作り上げていく。その一つ一つが、君自身を形作るものでもあるんだよ。」

若者はじっと職人の話を聞いていました。職人はさらに言葉を続けます。

「世の中には多くの近道があるように見える。闇の道もその一つだ。結果だけを追い求めることは、一瞬の満足感を与えてくれるかもしれないが、その背後にあるものは空っぽだ。それは、君が自分自身に向き合い、何かを築く努力を怠った証明に過ぎないからだ。」

職人は木片を削り始めました。

「見てごらん。この何の変哲もない木片が、少しずつ形を持つ。最初はぎこちなくてもいい。力を入れすぎて割れてもいい。だが、君が時間をかけて彫り続ければ、最終的には美しい形になる。そしてその過程で、君自身もまた変わっていくんだ。」

若者は職人の手元に目を凝らしました。何度も繰り返される単純な動作が、木片に美しい模様を描き出していました。

「誇りは、この手を動かす瞬間に生まれるんだ。結果がどうであれ、君が何かを作り上げるために努力したその痕跡が、君の魂を満たす。それが本物の誇りだ。」

若者の決意

若者はしばらく考え込んでいました。そして、小さな声で言いました。

「でも、僕にはそんな力があるのかな…。僕は何もかも投げ出して、影に逃げてばかりだった。」

職人は手を止め、若者の目を見据えました。

「誰もが最初はそうだ。影の誘惑に負けたからといって、君が終わりだというわけじゃない。大切なのは、その経験から何を学び、次にどう進むかだ。人間が人間であるのは、努力し、成長し、再び挑戦できるからだ。」

若者は深く息をつき、震える手で職人が差し出した彫刻刀を握りました。

「僕も…始めてみます。コツコツやってみます。」

職人は頷き、微笑みました。

「そうだ、それでいい。君が手を動かすたび、誇りは君の中に育っていく。そしてそれは、誰にも奪うことができないものだ。」

誇りの教えの締めくくり

職人は最後にこう言いました。

「覚えておけ、誇りとは贅沢品じゃない。君が自分の手で作り上げる、最も価値のある財産だ。近道で得たものでは決して満たされない、君自身の証だ。」

若者は小さく頷き、彫刻刀を動かし始めました。その手はぎこちなかったが、確かに動いていました。そして、その刃が木片を削るたびに、彼の中に小さな光が灯るのを感じました。

こうして若者は、光の村で新たな人生を歩み始めました。そしてその歩みの中で、彼は知ることになるのです──「誇りとは、決して急がず、ひとつひとつ積み上げることでしか生まれない」ということを。


闇の帝王との再会

ある日、若者が木彫りの作品を仕上げていると、不意に空気が冷たく変わり、薄暗い影が作業場に忍び寄ってきました。振り返ると、そこには闇の帝王が立っていました。

彼のマントは漆黒に輝き、闇そのものが生きているように揺れていました。冷たい目で若者を見下ろしながら、低い声で問いかけます。

「若者よ、ずいぶん楽しそうにしているな。」

闇の帝王は皮肉めいた笑みを浮かべながら、低い声で問いかけました。

「もっと簡単に金を手に入れる道があったはずだ。あの時、私がお前に与えた道をなぜ捨てる?

「それなのに、なぜそんな面倒なことを選ぶ?」

「だが、お前はまだ分かっていない。金貨の山もなく、権力も持たず、そんな木片を削って何が得られるというのだ?お前の努力は無駄だ。もっと簡単で、すぐに実を結ぶ道があったはずだ。」

若者は手を止め、しばらく考え込みましたが、やがて微笑みながら答えました。

「確かに、その道は簡単だったかもしれない。でも、あの道では僕は何も作れなかった。ただ壊すこと、奪うこと、それだけでした。ここで手を動かし、木を削りながら一つずつ作ることで、僕は自分の中に何かが積み上がるのを感じます。それが金貨の山よりも価値のあるものだと気づいたんです。」

闇の帝王は笑い声を上げた。そしてゆっくりと歩み寄り、低い声でこう囁きました。

「積み上がるだと?ほう、お前は自分が黄金を掘り出しているつもりか?笑わせるな。それはただの木片だ。誰もそんなものを見向きもしない。お前が削るそれが、どうして黄金より価値があると言える?」

「お前たち人間は、何とも愚かなものだ。」

帝王は低く、どこか苦しげに言葉を紡ぎました。

「手間や苦労を愛し、そこに意味を見出す。誇りだと?そんなものは、幻想にすぎない。だが──」

若者は少し考えた後、答えました。

「あなたの言う黄金は、確かに大きな価値を持つでしょう。でも、それは人の欲を満たすだけのものです。僕がここで作るものは、他の誰かの手に渡ったときに、その人の心を少しでも明るくできる。それが僕にとっての『本当の黄金』なんです。」

闇の帝王は冷笑を浮かべました。「価値だと?お前のその努力とやらが、何になるというのだ。お前の手で削られたこの木片が、世界を変えるのか?その些細な誇りが、闇の力に勝てるとでも思うのか?」

若者は目を伏せることなく、帝王を見据えて言いました。「僕が作るものは、世界を変えないかもしれません。でも、僕自身を変える。それが僕にとっては十分です。そして、僕が作ったものを手に取った誰かが、少しでも笑顔になるなら、それで僕の仕事は意味を持つんです。」

それだけで十分なんです。あなたが言うような速さや結果ではなく、僕はこの道でしか得られないものを見つけたんです。

闇の帝王の嘲り

闇の帝王は若者をじっと見下ろしました。

「心を明るくするだと?お前のような愚か者が作るものが、何の役に立つ?いいか、光の道というものは幻想だ。お前のような弱い者が、それを信じて進むほど無意味なものはない。」

彼は指を鳴らすと、若者の目の前に闇の道の光景を広げました。そこには、闇バイトで稼ぎ、大金を手にする若者たちの姿が映し出されていました。彼らは豪華な衣装を纏い、贅沢な暮らしを送っているように見えます。しかし、その目にはどこか焦燥感が漂い、足元には見えない鎖が絡みついていました。

「見ろ。これが闇の力だ。彼らは自由を得た。金も名声も手にした。お前の光の道がいかに虚しいか分かったか?」

若者の答え

若者はその光景をじっと見つめました。そして、木片を握りしめる手を強くして、はっきりと答えました。

「確かに、あの道は豪華に見えます。でも、その先にあるものは、あなた自身が一番よく知っているはずです。それは虚しさと後悔だけ。僕はその道には戻らない。ここで作るものが、誰かの役に立ち、笑顔を生むなら、それが僕にとっての本当の自由です。そして、僕はその自由のために働き続けます。」

闇の帝王は若者を見つめ続けました。その瞳には一瞬、理解できない感情が宿ったようにも見えました。しかし、それはすぐに消え、帝王の冷たい笑みが戻りました。

「いいだろう。光の道とやらを進むがいい。その信念とやらがどれほどのものか、見届けてやる。だが覚えておけ。影はどこにでも潜み、いつでもお前を飲み込む準備ができているのだ。お前が疲れ果て、心の隙間に闇が入り込む日に私はまた現れる。そしてそのとき、お前がまだ今のように微笑んでいられるか、見ものだ。」

「だが忘れるな、人間よ。お前のような者は少数だ。世界の大半は私の影の中で満足する。近道を選び、真実を見ようとせず、虚無を抱えて生きていく。私はその闇の中で力を蓄え続けるだろう。そして、いつかお前のような光も飲み込んでやる。」

若者は微笑みながら答えました。

「あなたがどれだけ多くの人を影に引きずり込んでも、ここには光があります。そして、その光を選ぶ人は必ずいます。あなたにはその光を消すことはできない。」

そう言うと、闇の帝王は漆黒の霧となり、姿を消しました。だがその冷たい言葉は、しばらく若者の耳に残り続けました。

そう言うと、闇の帝王は不気味な影を残しながらゆっくりと消えていきました。その足音が遠ざかるたびに、若者の作業場に再び温かな光が差し込みました。

若者の決意

若者は、再び手元の木片に目を向けました。彫刻刀を見つめました。確かに、闇の帝王が言ったことには真実もありました。影は決して消えることはない。それは人間の心の中に潜む弱さと結びついているからです。

しかし若者は、彫りかけの木片を手に取り、再び作業を始めました。「闇が何度訪れてもいい。僕の光は、それを追い払うためにあるんだ。」「光が小さくてもそれがある限り、僕は進める。」その手は以前よりも力強く、迷いなく動いていました。

若者は再び彫刻刀を手に取り、次の作品に取り掛かりました。その手は揺らぐことなく、確信を持って動いていました。

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